獄中記

獄中記

獄中でのメモや手紙を纏めたもの。投獄されて、それでも腐らずにそこでしかできない集中した読書をするところなど、只者ではない凄味がある。拘置所の環境が羨ましく感じるほど・・。
佐藤優のおもろポイントは「キリスト教徒」で「(元)外交官」で「被告人」という稀なアイデンティティを持ち、かつ恐ろしく博識であるところ。
佐藤は本書で「世界観としてキリスト教を認めないドクトリンを採用する国家(=日本)におけるキリスト教にはどういう意味があるか」という問題意識を持っていると書いている。日本人は「キリスト教を認めない」というより「宗教を信じる」という状態がどういうことなのかよくわからないのではないか。(僕にはよくわからない。)それこそ「200円でコーヒーを買えることを不思議だと思わない」のと同じように、キリスト教なりが当たり前になった状態を「信じる」というのだろうが、その感覚は僕には理解できない。聖書やコーランでも読めば少しは分かるのだろうか。
それから、この本にも死刑に関する記述が出てくる。となりの独房に確定死刑囚(というか浅間山荘事件の坂口弘氏)がいたりするから。「独房に長く居ると死刑囚の心理を追体験することができるようになってきます。これは私にとって、恐らく拘留生活によって得られた最大の成果だと思います。」
存廃については意見を述べていないが「イスラエルは(中略)死刑がありません。(中略)ユダヤ人は感情を激しく表す人たちです。その彼らが、人間の判断には過ちがあるということに対する深い洞察からあえて死刑制度を廃止したのは、ユダヤ人の叡智だと思います。」とあるので、冤罪を理由にした廃止論に近いのかもしれない。
だけど本書のなかで「外務省の連中はなぜ個人の命より重要な価値があると分からないのだろうか?」とも書く。恐らく日露平和条約締結を自分の命よりも重要だと考えているのだろう。僕のとしては、個人の命より重要な価値を認めるならば、戦争や死刑を認めることに繋がると思う。だから広い意味で佐藤優は死刑を認める立場なんじゃないかと思う。



国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

逮捕に至る経緯から保釈までを描いてあり、「獄中記」とほぼ同じ内容だった。(あたりまえか。)同じ内容だけど面白く一気読み。まあ、どちらかといえば、その名の通り獄中でのメモをベースにして、より心情がリアルに感じられる「獄中記」の方が面白かったかな。



感じない子ども こころを扱えない大人 (集英社新書)

感じない子ども こころを扱えない大人 (集英社新書)

学級崩壊や学力低下などの問題は子どもやその親が感情をうまく扱えず表現できないことが原因の一つと推察し、その上で実例や例題を挙げながら感情を上手に扱うテクニックを提示している。